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書き散らかしたもの置き場
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上司の甥っ子に、唐突に誕生日を聞かれたのは秋口の事だ。二月一日だけど、と応えたら、ああ、確かになんか冬っぽいですねと彼は笑った。
「なんでそんな事聞くの?」
「来週、菜々子の誕生日だって話を朝聞いたんですよ。それで、足立さんはいつなんだろうと気になって」
 その言葉に、僕は首を傾げた。
「菜々子ちゃんは家族だからわかるけどさあ、僕の誕生日なんてキミが気にすることじゃなくない?」
 他人の誕生日なんて知ったところで何一ついい事なんてないだろうにと呟くと、彼はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、気になりますよ」
「なーに、もしかして祝ってくれるつもりなの?」
「はい」
「へ?」
 冗談のつもりで言ったのに、迷わずに頷かれて面食らう。そんなの正直ありがた迷惑だ。
「えー……いいよそんなの。二十代後半にもなると、誕生日なんて嬉しくもなんともないもんだよ?」
 できるだけやんわりと拒絶を示したが、けれど彼は臆することなく僕を見て、「俺が、祝いたいんですよ」と微笑んだ。
「生まれた日を祝うことは、『貴方に会えてよかった。出会ってくれてありがとう』って言うのと同じ事だと思うんです」
 だから、俺は足立さんの誕生日を祝いたいんですよ。そう言った彼に、僕は困惑した。何その考え。キミ本当に高校生?
「僕はキミに対して、そんな大層な事をした覚えはないんだけど?」
「そんなことないです。菜々子と遊んでもらったり、料理食べてもらったりしてますから」
「大したことしてないじゃん」
「俺にとっては大したことです」
 呆れ交じりの言葉を、彼は柳のようにのらりくらりとかわしていく。何を言っても聞きそうにないと悟った僕は、降参とばかり両手を挙げた。
「……本当に変な子だねえ、キミは」
 肩を竦めてそう言うと、彼は「よく言われます」と目を細めた。褒めていないのに。と呟いた言葉は届いていただろうに、気にした様子はなかった。
「じゃ、ま、期待しないで待ってるよ」
「キャベツダンボール一箱位は期待してていいですよ?」
「えー、キャベツは好きだけどそんなにはいらないよ!」

 ……そうやって二人で笑いあったあの他愛もないやり取りを、彼はまだ覚えているのだろうか。

 実弾入りの拳銃をくるくると掌中で玩びながら、赤と黒に彩られた空を仰いで独り呟く。
「……キミはこんなことになってもまだ、「僕に会えてよかった」とか言えるのかな」
 まぁ、どんな答えが返ってきても、笑えないけどね。
 聞く者のない道化た僕の独り言は、静かに霧の中に消えていく。
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