「美味しいもの食べたときってホント幸せよねー……」
うっとりとした表情で呟かれたその言葉に、俺は思わず溜息を零した。
里中の言う「美味しいもの」が、ケーキとかだったら可愛かったし、突っ込む気など起こらないだろう。しかし残念ながらこいつの手に握られているのはどう見たって可愛らしさのかけらもない肉である。稲羽の住民なら多分みんな知ってる、固くてなかなか噛み切れないことで有名なビフテキ串が二本。その筋張った肉を苦も無く噛み切って次々と胃に収めていく姿は圧巻、まさに肉食獣の名に相応しかった。俺は、里中ほど肉を美味そうに食う女の子を他に知らない。ついでに言うなら、誕生日プレゼントに肉を要求する女の子も知らない。
一本目を軽く完食し、二本目を頬張りはじめる里中に
「ほんと、お前って色気より食い気だよな」
とぼやくと、じろりと睨みつけられた。
「悪かったわね。ていうかなんでそんなじっとこっち見てるのよ――あ、もしかして」
言いながら里中は、にんまりと悪戯な笑みを浮かべて。
「あんたも食べたかったりする?」
と、的外れなことを言いながら食べかけのビフテキ串を俺の目の前に差し出して見せた。(つーかそれ買ってやったの俺だろうが……)
表情から察するに、里中の意図はただのからかいだろう。続く言葉が「なんてね、あげないよ」だということは分かりきっている。
……ので。ちょっと意趣返しを仕掛けてやろうと思う。
俺は里中が口を開くその前に、先端の食べさしの肉に齧りつき、それを掠め取った。
え、と驚きに動きを止めた里中の前で、もぐもぐと咀嚼して飲み下す。ごっそーさんと一言呟いて、それからダッシュで逃げ出した。
暫くして、後ろからは、正気に返った里中の「待ちなさいよ!」と叫ぶ声。それを聞いてほくそ笑む。
――うん。これでいい。
お前が肉が好きなのは知ってるし、幸せそうなお前を見てるのもまぁ、いいんだけどさ。
それでも恋人としては、肉よりこっちに気を払ってほしいわけですよ。なんて。
……そんな俺の思惑は、恨みと照れ交じりの里中の飛び蹴りによって伝える間もなく意識の彼方へブラックアウトしたわけだけれど。
うっとりとした表情で呟かれたその言葉に、俺は思わず溜息を零した。
里中の言う「美味しいもの」が、ケーキとかだったら可愛かったし、突っ込む気など起こらないだろう。しかし残念ながらこいつの手に握られているのはどう見たって可愛らしさのかけらもない肉である。稲羽の住民なら多分みんな知ってる、固くてなかなか噛み切れないことで有名なビフテキ串が二本。その筋張った肉を苦も無く噛み切って次々と胃に収めていく姿は圧巻、まさに肉食獣の名に相応しかった。俺は、里中ほど肉を美味そうに食う女の子を他に知らない。ついでに言うなら、誕生日プレゼントに肉を要求する女の子も知らない。
一本目を軽く完食し、二本目を頬張りはじめる里中に
「ほんと、お前って色気より食い気だよな」
とぼやくと、じろりと睨みつけられた。
「悪かったわね。ていうかなんでそんなじっとこっち見てるのよ――あ、もしかして」
言いながら里中は、にんまりと悪戯な笑みを浮かべて。
「あんたも食べたかったりする?」
と、的外れなことを言いながら食べかけのビフテキ串を俺の目の前に差し出して見せた。(つーかそれ買ってやったの俺だろうが……)
表情から察するに、里中の意図はただのからかいだろう。続く言葉が「なんてね、あげないよ」だということは分かりきっている。
……ので。ちょっと意趣返しを仕掛けてやろうと思う。
俺は里中が口を開くその前に、先端の食べさしの肉に齧りつき、それを掠め取った。
え、と驚きに動きを止めた里中の前で、もぐもぐと咀嚼して飲み下す。ごっそーさんと一言呟いて、それからダッシュで逃げ出した。
暫くして、後ろからは、正気に返った里中の「待ちなさいよ!」と叫ぶ声。それを聞いてほくそ笑む。
――うん。これでいい。
お前が肉が好きなのは知ってるし、幸せそうなお前を見てるのもまぁ、いいんだけどさ。
それでも恋人としては、肉よりこっちに気を払ってほしいわけですよ。なんて。
……そんな俺の思惑は、恨みと照れ交じりの里中の飛び蹴りによって伝える間もなく意識の彼方へブラックアウトしたわけだけれど。
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