とうこさん(@mashirou25)家の真白くんと花村くん。コンビ。
ごめんなさい真白くんの思慮深い感じが全くでなかった…!(切腹)
技量不足が物凄い滲み出ておりますがこんなんで良ければお納めください…!
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俺は一体、この手の中の物体をどうすればいいのだろうか。
目下、俺の頭を悩ませているのは、実習棟の一階にいる男子からの貰い物だった。
先日から彼に入手を依頼されていた針銀鉱。テレビの中で見つけたそれを渡したところ、礼だと笑顔で渡された紙袋。その中身は、銅線の巻かれたコイルと、いくつかの電子部品と、ダイヤルのついた『ラジオ』。それからティッシュの空箱にぐるぐると銅線を巻き付けた、彼言うところの『アンテナ』だった。
「良い出来だから、使ってみてよ」と手渡されたこれらだが、正直どう使えばいいのか俺には見当もつかない。こういった工作とかには疎いんだ。扱い方を本人に聞こうにも、彼は依頼の品を渡した直後に上機嫌で下校していってしまった。さてどうすべきかと途方に暮れていると、「おーい、高石ー」と聞き慣れた呼び声がしたので振り返る。ぱたぱたと足音を立てて、花村が駆け寄ってきた。彼の動きにあわせてオレンジ色のメッセンジャーバッグが元気に跳ねる。
「なに、その紙袋」
花村は俺のそばで立ち止まると、俺の持つ紙袋の中身を覗き込んで、思いきり首を傾げた。どうやら彼もこういうラジオは初見であるらしい。
「ラジオ、らしい。使い方は、よく分からないけど」
「……なんか俺の知ってるラジオと違うような気がするんだけど、聞けんの? 電源、どれ?」
「分からない……ゲルマラジオ、って言うらしいんだけど」
「ゲルマラジオ……? ちょっと待ってな」
一言そう断ると、花村はポケットから引っ張り出した携帯を弄りはじめる。かちかちかちかち。と、響く高速の打音。いつも思うのだけれど、どうやったらこんなに早く携帯を操作できるようになるのだろうか。俺には一生無理な気がする。花村すごい。
俺の感心を他所に、花村は暫く携帯の画面とにらめっこしていたが、不意にむ、と表情を硬くした。そのまま30秒ほど待つと、今度は顰められていた眉がへにゃりと情けなく崩れる。
「高石、これ分かるか? 俺全然だわ……」
諦めの言葉と共に差し出された画面を覗き込む。そこにはゲルマラジオの回路図と、仕組みが記してあった。俺はどちらかといえば文系寄りではあるが、技術の授業で習ったぶんくらいなら何とかわからなくもない。見慣れない図形と文字を一生懸命目で追ってみる。
「……えっと……あれ、回路図に電源がない? あ、電波を電源として動くのか。すごいな」
「え、そんなこと出来るのか? そんじゃこれ、今すぐ使えるってこと?」
「出来るみたいだ。えっと、こっちの端子にイヤホンつないで……あとはこのアンテナ? をこっちにつないで電波拾えばいいのかな」
「ふぅん。電波なら高いとこの方が捕まえやすいかな。そんじゃ屋上でも行ってみようぜ」
さらりと挙げられた花村の提案に、思わず彼の顔を凝視して、ぱちんと瞬きを一つ。
「……花村も聞くの?」
「え、聞かせてくれねーの!?」
「いや、そういう訳じゃないけど……まぁいいか。とりあえず行ってみよう」
「おう」
花村と二人、連れ立って、屋上へ向かう。放課後の屋上は、人が少ない。今日は里中もいないようだ。出入り口の傍にいる天気予報士志望の女子に挨拶をしながら、いつもの定位置に腰かける。花村がメッセンジャーバッグの中からイヤホンを取り出して、ラジオの端子につないだ。
「イヤホンも持ってたのか。ヘッドホン通常装備のくせに」
「万が一こっちが壊れたときの予備に、一応な。安い奴だから音質は良くねーけど」
一つのイヤホンを左右で分けあって、耳に押し込む。適当にアンテナをつないで設置し、手元のラジオ本体のダイヤルをくるくると回すと、花村が鳶色の目を丸くした。
「聞く局決めてあんの? ってか、周波数分かるのか?」
「叔父さんが聞いてたから、ひとつだけ分かる。1584。NHK第一」
「そりゃまたベタな。でも確かに拾いやすいかも。電波強そうだ」
そんなやり取りを交わしながら周波数を合わせる。けれど、しばらく待ってみてもイヤホンからは何の音も聞こえてはこない。二人でちらりと視線を交し合って、それからうぅん、と小さく唸った。
「……なにも聞こえないな」
「んー……アンテナの方向が悪いとか?」
ちょっとアンテナ、動かしてみようか。そう言って花村が、アンテナを軽く持ち上げたその瞬間。
『――そ――では、次――ニュース――す――』
途切れ途切れではあるけれど、確かに聞こえたその音に。
俺が感嘆の声を零すより早く、花村が叫んだ。
「っわ、すげぇ!! 音ちっさいけど聞こえた! なにこれ!」
「ちょ、落ち着け、そんなに騒いだら聞こえないだろう」
「だって、すげぇじゃん! こんなんでほんとにラジオ拾えんのか!」
すごいすごいと目を輝かせ、花村は頑是ない子供のようにはしゃぐ。その姿を見ていたら、なんだかだんだん俺まで楽しくなってきた。
「……うん。うん、すごいな」
「な!」
そう言って花村は満面の笑みを浮かべる。
ふと、これをくれた彼が、ぽつりと話してくれた思い出話が甦った。幼いころ、女の子と一緒にラジオを聞いたのだと、それがとても楽しかったと、優しい顔で笑って、話してくれた。彼と彼女もまた、わくわくして、どきどきして、きらきらとした、こんな時間を、気分を味わっていたのだろうか。
「……それはとても、素敵な体験だな」
「へ?」
「いや、こっちの話」
きょとんとする花村に微笑みを返して、そっと目を閉じる。
幽かに聞こえるラジオの音は、飛び飛びで、小さいけれど。どこか、懐かしくて暖かい。
ごめんなさい真白くんの思慮深い感じが全くでなかった…!(切腹)
技量不足が物凄い滲み出ておりますがこんなんで良ければお納めください…!
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俺は一体、この手の中の物体をどうすればいいのだろうか。
目下、俺の頭を悩ませているのは、実習棟の一階にいる男子からの貰い物だった。
先日から彼に入手を依頼されていた針銀鉱。テレビの中で見つけたそれを渡したところ、礼だと笑顔で渡された紙袋。その中身は、銅線の巻かれたコイルと、いくつかの電子部品と、ダイヤルのついた『ラジオ』。それからティッシュの空箱にぐるぐると銅線を巻き付けた、彼言うところの『アンテナ』だった。
「良い出来だから、使ってみてよ」と手渡されたこれらだが、正直どう使えばいいのか俺には見当もつかない。こういった工作とかには疎いんだ。扱い方を本人に聞こうにも、彼は依頼の品を渡した直後に上機嫌で下校していってしまった。さてどうすべきかと途方に暮れていると、「おーい、高石ー」と聞き慣れた呼び声がしたので振り返る。ぱたぱたと足音を立てて、花村が駆け寄ってきた。彼の動きにあわせてオレンジ色のメッセンジャーバッグが元気に跳ねる。
「なに、その紙袋」
花村は俺のそばで立ち止まると、俺の持つ紙袋の中身を覗き込んで、思いきり首を傾げた。どうやら彼もこういうラジオは初見であるらしい。
「ラジオ、らしい。使い方は、よく分からないけど」
「……なんか俺の知ってるラジオと違うような気がするんだけど、聞けんの? 電源、どれ?」
「分からない……ゲルマラジオ、って言うらしいんだけど」
「ゲルマラジオ……? ちょっと待ってな」
一言そう断ると、花村はポケットから引っ張り出した携帯を弄りはじめる。かちかちかちかち。と、響く高速の打音。いつも思うのだけれど、どうやったらこんなに早く携帯を操作できるようになるのだろうか。俺には一生無理な気がする。花村すごい。
俺の感心を他所に、花村は暫く携帯の画面とにらめっこしていたが、不意にむ、と表情を硬くした。そのまま30秒ほど待つと、今度は顰められていた眉がへにゃりと情けなく崩れる。
「高石、これ分かるか? 俺全然だわ……」
諦めの言葉と共に差し出された画面を覗き込む。そこにはゲルマラジオの回路図と、仕組みが記してあった。俺はどちらかといえば文系寄りではあるが、技術の授業で習ったぶんくらいなら何とかわからなくもない。見慣れない図形と文字を一生懸命目で追ってみる。
「……えっと……あれ、回路図に電源がない? あ、電波を電源として動くのか。すごいな」
「え、そんなこと出来るのか? そんじゃこれ、今すぐ使えるってこと?」
「出来るみたいだ。えっと、こっちの端子にイヤホンつないで……あとはこのアンテナ? をこっちにつないで電波拾えばいいのかな」
「ふぅん。電波なら高いとこの方が捕まえやすいかな。そんじゃ屋上でも行ってみようぜ」
さらりと挙げられた花村の提案に、思わず彼の顔を凝視して、ぱちんと瞬きを一つ。
「……花村も聞くの?」
「え、聞かせてくれねーの!?」
「いや、そういう訳じゃないけど……まぁいいか。とりあえず行ってみよう」
「おう」
花村と二人、連れ立って、屋上へ向かう。放課後の屋上は、人が少ない。今日は里中もいないようだ。出入り口の傍にいる天気予報士志望の女子に挨拶をしながら、いつもの定位置に腰かける。花村がメッセンジャーバッグの中からイヤホンを取り出して、ラジオの端子につないだ。
「イヤホンも持ってたのか。ヘッドホン通常装備のくせに」
「万が一こっちが壊れたときの予備に、一応な。安い奴だから音質は良くねーけど」
一つのイヤホンを左右で分けあって、耳に押し込む。適当にアンテナをつないで設置し、手元のラジオ本体のダイヤルをくるくると回すと、花村が鳶色の目を丸くした。
「聞く局決めてあんの? ってか、周波数分かるのか?」
「叔父さんが聞いてたから、ひとつだけ分かる。1584。NHK第一」
「そりゃまたベタな。でも確かに拾いやすいかも。電波強そうだ」
そんなやり取りを交わしながら周波数を合わせる。けれど、しばらく待ってみてもイヤホンからは何の音も聞こえてはこない。二人でちらりと視線を交し合って、それからうぅん、と小さく唸った。
「……なにも聞こえないな」
「んー……アンテナの方向が悪いとか?」
ちょっとアンテナ、動かしてみようか。そう言って花村が、アンテナを軽く持ち上げたその瞬間。
『――そ――では、次――ニュース――す――』
途切れ途切れではあるけれど、確かに聞こえたその音に。
俺が感嘆の声を零すより早く、花村が叫んだ。
「っわ、すげぇ!! 音ちっさいけど聞こえた! なにこれ!」
「ちょ、落ち着け、そんなに騒いだら聞こえないだろう」
「だって、すげぇじゃん! こんなんでほんとにラジオ拾えんのか!」
すごいすごいと目を輝かせ、花村は頑是ない子供のようにはしゃぐ。その姿を見ていたら、なんだかだんだん俺まで楽しくなってきた。
「……うん。うん、すごいな」
「な!」
そう言って花村は満面の笑みを浮かべる。
ふと、これをくれた彼が、ぽつりと話してくれた思い出話が甦った。幼いころ、女の子と一緒にラジオを聞いたのだと、それがとても楽しかったと、優しい顔で笑って、話してくれた。彼と彼女もまた、わくわくして、どきどきして、きらきらとした、こんな時間を、気分を味わっていたのだろうか。
「……それはとても、素敵な体験だな」
「へ?」
「いや、こっちの話」
きょとんとする花村に微笑みを返して、そっと目を閉じる。
幽かに聞こえるラジオの音は、飛び飛びで、小さいけれど。どこか、懐かしくて暖かい。
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