忍者ブログ
書き散らかしたもの置き場
[58]  [57]  [56]  [66]  [55]  [65]  [67]  [52]  [51]  [59]  [50
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

皮膚の薄い部分に、花村の同じところが触れる。
 軽く吸われ、瞼を閉じる。濡れた舌先につつかれ薄く口を開けば、するりと入り込んできた。
 だいぶ慣れてきたものだ、なんて、咥内を好きなように弄られながらも他人事のように思う。最初はそれこそ、押しつけるだけの、子どものようなキスしかできなかったくせに。
 唇を離され瞼を開けると、嬉しそうにゆるんだ鳶色の視線にぶつかった。
 基本的に花村は、懐に入れた相手に対しては感情を隠すことをしない。だから多分、俺とのキスは、彼にとっては嬉しいとか、喜ばしいとか、そういう感情を伴う行為であるらしい。
 ……男とのキスなんて、数ヶ月前なら全力で嫌がっていただろうにな。
「へへ、どうよ。俺も少しはうまくなっただろ?」
「少しはね」
「なんだよー。そりゃお前に比べりゃ経験値低いけどさ!」
 くそー、と分かりやすくふてくされてみせるこの男は、本当にあの花村陽介なのだろうか。そんなことをも考えてしまう。
 分かっている。花村をこう変えたきっかけは、間違いなく俺で。 そして俺が、これを望んでいたことは、確かなのだけれど。
 かわいい女の子が好きだった、『普通』だった花村を、男同士の恋愛なんていう、普通じゃない道に引き込んでしまったことに、後悔を覚えていないかといえば嘘だ。
 この関係はきっと、花村も、周囲も、そして俺自身も。誰も幸せなんかにしてくれない。
 だから、引き返すならきっと、今のうちだ。

 ……それが最善の道だと分かっているのに。それでも、浅ましくて弱い俺は。
「じゃあさ、練習するから。もう一回させて?」
 そんな花村の要求を断ることもできず。
「……仕方ないなぁ」
 薄っぺらな言葉と態度で、自分も花村も誤魔化して。
 そっと目を伏せ、全てを見なかったことにした。
PR
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
ブログ内検索
リンク

Copyright (c)シャドウの物置 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Photo by Kun   Icon by ACROSS  Template by tsukika


忍者ブログ [PR]